昭和の「働き蜂」のこれからを考える
「働かざるもの食うべからず」
これは私が幼少時、夏休みに宿題もせず遊んでばかりいたら、いつも親から言われた言葉です。
でも、最近はあまり聞かないですよね。むしろ、会社で部下に対してこんな発言をしようものなら、「パワハラだ!」って言われかねません。
この「働かざるもの食うべからず」の語源は、新約聖書の『テサロニケの信徒への手紙二』の次の一節だそうです。
If any would not work, neither should he eat. (働こうとしない者は、食べることもしてはならない)
何らかの理由で働けない人は除いて、勤労意欲の無い人は生存権も与えられない?
一生懸命働いている人からすると、そう思う人もいるかもしれませんが、冷静になって考えると、これは労働義務と生存権をごちゃ混ぜにした、社会保障自体を否定するような内容だといえます。”働かざるもの”、”食うべからず”は切り分けるべき?
ところで、ニュースなどでこんなデータを目にしたことはありませんか?
日本の労働生産性は先進国(G7)の中で最下位
学校では、「日本人は几帳面で、手先が器用で、真面目で、勤勉な国民」だって教えられてきましたよね(今は異なるかもしれませんが・・・)。これを聞くと、「日本人はすっかり怠け者になってしまって、働かない人ばかりになってしまった」かのように受け止めかねない内容ですね。本当にそうなんでしょうか?
出典:日本生産性本部「労働生産性の国際比較2016年度版から作図
日本人は今も昔も「働き蜂」?
一方で、旅行予約サイトの「エクスペディア」が毎年実施している「有給休暇国際比較調査」では日本の有休消化率は最下位。これを見ると、やはり、今も昔も日本人は「働き蜂」。
ただ、日本人はダラダラと時間をかけて仕事をしているようにも見えますね。
一方で、こんな声も聞こえてきます。
「昔は食事も忘れて仕事に没頭していたもんだよ。でも、今は残業禁止だの、プレミアムフライデーだの、早く帰れってうるさいんだよ。仕事の量は減ってないのに時間を短くしろって言われても、どこかにしわ寄せがいくだけ」
ここで重要なのは、「職場において、昔と今とでは変わってしまった点が幾つかある」ということです。特に、ITによって業務内容や働き方が変わってしまったケースが多いですね。
電子メールの登場によって電話をかける回数が激減した → 静まり返ったオフィスも当たり前
電子メールの登場によって複数の人に同時に連絡をすることが可能になった → 上意下達のやり方が変わり、中間管理職のポストが減ってしまった
コンプライアンスという言葉が浸透した → パワハラ、モラハラ…など、昔は当たり前の発言や行動が許されなくなってきた
ITの進化に伴い、手作業で行っていた仕事が消滅してしまった → 社内失業
情報は検索すればなんでも見つけられることができる時代になった → 知識量よりも情報検索のスピードが求められ、また、その情報の妥当性や信憑性を見極める能力が必要とされる時代
ご近所づきあいの希薄化により、受け継がれてきた日本の躾が行き渡らなくなり、日本人でも様々な価値観を持つ人が増えてきた
などなど、考えてみるとたくさんありますね。若い社員は今しか知らないから、昔との違いにはピンとこないかもしれませんが…。
環境が変化したにも関わらず、日本企業の多くは雇用を守るために組織変更を繰り返し、変化に対応してきてはいたのですが、人材の流動化に対しては積極的に取り組んでこなかったため、働く側の意識が変わらず、環境の変化に取り残された人が増えてしまっているのです。一般的に役職定年だと言われる55歳ぐらいからはそういった取り組みをしている会社もありますが、その時点では遅いです。
事実、厚労省の年齢別の賃金の変化を見ると、45歳〜54歳男性の賃金が減少しています。つまり、従来、中間管理職として活躍してきた45歳以上のサラリーマンが余剰気味になった結果、賃金が低下しているのでは無いでしょうか。
昭和の働き蜂の活躍が鍵
また、2017年5月の有効求人倍率は、1.49倍と43年ぶりの高水準で一段と人手不足になって来ているようですが、使いやすい若い世代の求人は多くても、45歳以上の求人は職種が偏っていたりと厳しいといえます。どうやら年代別によって違いがあるようです。
「働かざるもの食うべからず」「飯も寝る間も忘れて一心不乱に働く」
労働生産性を向上させるためには、昭和世代の「働き蜂」が自ら率先して働き方改革を実践することが必要です。一方、企業サイドも彼らが活躍できる環境を整えていく必要です。
「パワハラ親父」「老害」など様々な言葉で敬遠されがちなミドル社員ですが、以前のシニアとは異なり、60歳でも元気でバリバリ働ける人は多いです。時代の変化による現在の価値観を理解した上で、若手と雇用を奪いあうのではなく、自らが活躍できる仕事をや役割を創出していくことが重要です。今後の日本経済は「昭和の働き蜂の活躍が鍵」だといえます。