今こそ積極的に学んでみよう!古き良き、唐の時代の働き方
『徳は事業の基(もとい)なり』
これは、中国の古典の菜根譚(さいこんたん)の一節ですが、徳性を研き上げることは、経営の王道(覇道ではなく)を歩む上で、絶対必須である。そしてその多くを、『歴史』から学ぶことができる。特に中国の古典には、 悠久に、語り継がれてきた名著が多く、それらを、勉強し、実践することが、徳性の向上に大いなる影響を与える。 しかしながら、中国古典の原野は、極めて広大で、とっつきにくい。
その中でも、突出する2大名著は、
『貞観政要(じょうがんせいよう)』 …唐2代目の太宗と臣下達の言行録
『宋名臣言行録(そうめいしんげんこうろく)』 …北宋時代の高級官僚の言行録
である。 中国の人民が最も幸せだった時代を治めた君主と臣下たちの最高の帝王学(経営者のふるまい)が、学べる。
今回はこのなかの『貞観政要』のお話をさせてください。
中国史上最高の名君といわれた人物である、唐の時代の二代目の君主・太宗とその臣下たちによる会話をまとめたものです。
日本でも、遥かの北条政子の時代から、徳川家康、明治天皇、山本七平らが座右の書として愛読してきたこの古典を、稀代の読書家と言われる名経営者である出口治明さんが、とても取っ付きやすい現代の書として、焼きなおしてくれました。 人間と言うものの本質は、 今も昔も変わりなく、 中国も日本も変わりなく、
かなり不勉強な現代の僕らにも実践できる、
有用な書となっています。 さて、この『貞観政要』の一番重要な部分を転記しますね。
5つのポイントです。
(1) 組織はリーダーの器以上のことは何一つできない。
そうであれば、有限の「器」の大きさしか持てない生身の人間(リーダー)にできることは、自らの器を捨てる、あるいは必死に消すことしかない。
(2) リーダーは、自分にとって都合の悪いことを言ってくる部下をそばに置くべきである。部下の諫言(苦言)を受け入れる努力を常に怠らないようにしないと、裸の王様となり、自分の本当の姿が見えなくなってしまう。
(3)臣下(部下)は、茶坊主になってはいけない。上司にはおもねってはならない。天知る、地知る、我知る、人知る(後漢書)。他人は知るまいと思っても、悪事(ウソ)は必ずいつかは露見する。だから部下は、自分の信念に従い、勇気を持って正しいと思うことを上司に諫言すべきである。
(4)君は舟なり、人は水なり、水はよく船を載せ、またよく舟を覆す。君主(リーダー)が舟で、人民(部下)が水。舟は、水しだいで安定もすれば転覆もする。リーダーは、部下に支えられているということを片時も忘れてはいけない。どれほどの権力を持とうとも、部下に見放されたリーダーは役に立たない。つまり、リーダーシップとは、人(部下)がついてくることである。
(5)リーダーは常に勉強し続けなければいけない。
「貞観政要」自体が古典であるが、当時から見た古典が多数引用されているのは、抽象論では人を動かすことはできないからである。具体的な事例を持ち出して話をするためには、リーダーはさまざまなケーススタディについて勉強しつづけなければならない。
この5つのポイントを実現し、優れたリーダーになるには、銅の鏡、歴史の鏡、人の鏡の3つの鏡を持つことが大切です。
銅の鏡とは、現代でいう自分の顔を映し出す普通の鏡です。
その鏡を見ながら、部下や周りの人達が、話しかけやすい「良い表情」をたえず作っていくことが大切であるとしています。自分だけでは何も出来ない人の世において、元気で、明るく、楽しそうにしていれば、人との距離感はうまります。笑顔、とても大切ですね。そのための自己チェックの鏡です。
歴史の鏡とは、過去を照らして、将来に備えるための鏡です。未来は何が起こるか誰にもわかりません。しかし、過去の成功や失敗の事例を数多く学んでおくことによって、未来への対応の参考にすることが出来ます。
人の鏡とは、諫言(自分を諌めてくれる言葉)してくれる「他人」の鏡です。そもそも貞観政要は、耳に痛い事を言ってくれる臣下とそれを素直に受け入れる君主との会話をまとめたものです。太宗さんは、この他人の鏡によって、類まれなる名君に成長したと言っても過言ではありません(太宗さんご本人も、そう言っています)。人間、偉くなるに従って、注意されなくなります。その結果、裸の王様が出来上がります。そして、権力を持てば持つほど、モンスターのようになっていきます。他人の鏡を通して、自分が裸であること、怪物であることに気づくことが必要です。
もう一つ、特に重要だとされているのは、部下に仕事を任せ、権限を与えたなら、後は部下に任せる。ということです。これはその部下の権限の範囲での決定ならば、君主といえどもそれには従わなければならなりません。君主は、絶対的な権限を持っており、それを自分勝手に行使したら、部下を混乱させ、疲弊させ、結果として、裸の王様の出来上がりです。そして、君主の一言一句に組織全体が振り回され、同質化された脆弱な組織になり、時代の変化に追従できなり、滅んでしまいます。このことを、太宗さんはよく分かっており、それが出来たことで、唐に繁栄をもたらしました。
また、貞観政要には、良いリーダーの10の思慮と、9の徳行として十思九徳が引かれています。すでにご存知かもしれませんが、復習のため書き出しておきます。
十思
欲しいものがあらわれたら、老子の「足るを知る」を思い出して自戒する
大事業をするときは、老子の「止まるを知る」を思い出し立ち止まって考える
大きなリスクを冒してまで野望を果たそうとしてはいけない、謙虚になって自制する
もっと欲しいと満ち溢れるような状態になりたい気持ちが起こったら、大海はたくさんのちいさな川の水が下へ集まってできたものであることを思い出して、謙虚に振舞う。
遊びたくなったら、自ら制限を設けて節度をもって遊ぶこと
怠けそうになったら、何事にも一所懸命に取り組んでいた初心を思い出すこと。最後までやり遂げても、威張ったり自慢したりせず、謙虚さを忘れないこと。
自分の目や耳が塞がれていると思ったら、下の者の意見を率直に聞くこと。
讒言や中傷を恐れるなら、まずは、自分の立ち振る舞いを正すこと。
部下の手柄を褒めるときに、恩賞を与えすぎてはいけない。
部下を叱責するときは、感情に任せて怒りをぶつけてはならない、信賞必罰は公正に。
九徳
寛にして栗)寛大な心を持ちながら、不正を許さない厳しさを合わせ持つ
(柔にして立)柔和の姿勢を持って、むやみに人と争わない。しかし、自分のなすべきことに対しては 必ずやり遂げる力を持つ。
(愿にして恭)真面目だが、尊大なところがなくて丁寧である。
(乱にして敬)事態を収束させる能力がありながら、慎み深く、謙虚である。相手を決して見下さない。
(擾にして毅)威張ったりせず、普段は大人しいが、毅然とした態度や強い芯を持つ
(直にして温)正直で率直にものを言うが、冷淡ではなく、温かい心を持つ
(簡にして廉)物事の細かい点には拘泥しない。おおまかであるが、清廉潔白である。
(剛にして塞)剛健だが、心が充実している。
(彊にして義)いかなる困難でも正しいことをやり遂げる強さを持つ。
温故知新、たまに古典を振り返ってみるのも良いですね。
これからの時代の働き方の参考になるかもしれません。
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